この事例の依頼主
50代 男性
相談場面① 亡父の前妻の子と顔をあわさずに遺産分割協議をしたい父が亡くなりました。遺言はなく、母もすでに亡くなっており、私たち姉弟のほかに相続人として、父と前妻との間の子どもが二人いると聞いていますが、音信不通で、住所もわかりません。顔を見たこともない人たちに連絡をとるのも不安ですが、このままでは相続手続もとれず、困っています。相談場面② 遺言が見つかり、長男にすべてを相続させる内容になっており納得できない父が亡くなり、私たち兄弟3人が相続人ですが、長兄が公正証書遺言があると言って、父のすべての財産は長兄に相続させると書いてあると言っています。私たち弟には何も権利はないのでしょうか。このままでは納得できません。相談場面③ 父が亡くなったが、借金の取立てがくるのが怖い一人暮らしをしていた父が亡くなりましたが、アパートの部屋を片付けているとサラ金の書類が何枚も見つかりました。めぼしい遺産もないので、サラ金が私たちのところへ取立てにくるのではないかと不安でなりません。どうしたらよいでしょうか。
解決方法① 遺産分割交渉、遺産分割調停相続にあたり、遺言がない場合は、相続人が誰々かを調査し、さらに遺産の範囲を確認して遺産目録を作り、全員で遺産分割協議を行う必要があります。顔もあわせたことのない相続人が判明したとき、不安になる場合もあります。弁護士が代理人として遺産分割協議の調整役をつとめることがあります。協議ができそうにないとき、協議が整わないときは、必要書類をととのえて、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。家庭裁判所で顔をあわさずに分割方法を話し合います。調停でもまとまらないときは、審判に移行し、裁判官が審判で分割方法を決めることになります。解決方法② 遺留分減殺請求相続にあたり、遺言がある場合は、遺言の内容に即して遺産を分けることになり、遺言執行者による執行がなされます。しかし、遺言の内容が、本来の相続人の遺留分を侵害しているときは、遺留分減殺請求を行うことができます。相続開始および遺留分が侵害されている事実を知ってから1年以内に権利保全をしておく必要がありますから、まず遺留分を侵害している相手方に遺留分減殺請求の内容証明を送ります。その後、交渉もしくは調停の申立てをして、現物を取り戻すか、代償金の支払いを求めるか、検討しつつ依頼者の権利を実現していくことになります。調停でも解決しない場合は、訴訟を起こして解決をはかります。解決方法③ 相続放棄の申述相続を考える際に、負債の方が大きいときは、相続開始から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述を行う必要があります。借金の存在に気づくのが遅くなったり、3か月内に負債の方が大きいかどうかがわからないときは、3か月のいわゆる熟慮期間の伸長を求めて家庭裁判所に審判申立てを行い、1~2か月の期間伸長を認めてもらうよう対処します。その間に負債調査を行い、相続放棄をするか相続承認するかを決めます。放棄にあたっては、遺産を勝手に処分したりすると相続を承認したものとみなされるので注意しつつ動きます。相続放棄が認められれば、申述受理証明書をとって貸金業者などから相続人に対する請求があっても証明書の写しを見せて支払いを拒絶できます。
コメント①遺産分割協議にあたり、関係する相続人が多く調査に困難が予想される場合や、顔を見たこともない親族が判明して直接連絡をとることに不安がある場合など、弁護士が間に入って交渉や調停申立てを行うことで円滑な協議が進むことはよくあります。遺産分割調停においても、遺産の範囲に問題を抱えている場合や、特別受益や寄与分が問題とされる場合などは、法的な主張と証拠集めをきちんと行うことが必要であり、弁護士として解決に向けて粘り強く関わるよう心がけています。コメント②遺留分減殺請求は相続開始から1年以内に遺留分減殺請求の意思表示を侵害者側に通知しておく必要がありますから、迅速な対応が必要です。そのうえで遺言内容を確認しつつ、遺産の範囲を調査して、減殺対象と価額を決めて交渉に入ります。不動産の評価が争点となったり、遺産の範囲に盛り込む財産調査などを丁寧に行うことで、依頼者の納得につながることが少なくありません。コメント③被相続人の負債が大きい時は相続人は大変悩みます。3か月の熟慮期間内に相続放棄をするかどうかを決めなくてはいけません。調査に時間が足りないときは熟慮期間伸長の審判申立てを用います。またプラスの遺産とマイナスの借金などのバランスを考えつつ、ていねいに継続相談にのりつつ対応を考えていくことになります。